第123回
それは、もうどれくらいの時間がたったのか王にも見当がつかないくらい海の上で月日がながれたある日起こった。その日、雲は低く強い風が吹き、波の飛沫が天井にあいた穴から入り込んでくるような、気の滅入るいちにちだった。前日に精力的に働いた王は、天候の悪いこの日を体を休める日にあて、ながながと寝床に寝そべって、またバターを相手にいろんな話に興じていた。それはむかし王がまだ王であったとき経験した、旅の芸人に恋をした時の話だった。この旅の芸人たちがどのようにして宮殿に招かれ、どのようにして小柄な男が象を背負ったり、ライオンよりも高く飛び跳ねたり、三十分以上も水に潜ったりしていろんな芸人たちが王の前で芸を披露し、そのうちのひとりの娘がどのようにして美しい舞を踊り、王を魅了したかを話しているとき、部屋を外からたたく音が聞こえた。 「何だ、いまの音は?」 王は全身を硬直させて起き上がった。バターも驚いて部屋を落ちつきなく歩き回った。用心深く耳をすませると、風が空気を裂く音と波が壁にぶつかる音しか聞こえてこない。聞き間違いだったのだろうか?またゆっくりと体を寝床に横たえて、話をつづけた。 「どこまで話したっけ?そう、その娘は不思議な踊りを踊っておったな。うすくて長い布を体中にまとい、細い帯をその上からやわらかく巻きつけて浮遊するようにゆらゆら、ゆらゆら踊っておったんだ。その娘が舞って袖が空気を撫でるようにたなびくと、わしの体も舞ってしまいそうな好い匂いをが漂ってきて、なんだか夢のなかで見ているような心地だった…。」 そのときまた、しかし今度ははっきりと壁をたたく音が聞こえた。誰かが緊急の用事でもあるかのようなたたき方だった。しかし外は見わたす限りの荒波で、この部屋まで急用があって訊ねてくるような場所ではない。しかしたしかに人間がたたいているように聞こえるのだ。王はまたすばやく起き上がって、耳をすませた。 「聞こえたか?」王が尋ねた。 バターは羽の切られた翼を広げ、騒がしく鳴きはじめた。 「しっ!」王は指を唇にあててバターを制した。 バターはその合図でぴたりと止まり、王と同じように耳をすました。風の音と波の砕ける音とのあいだに、なにかこするような音がたしかに聞こえてくる。王は緊張してその音源をさがした。魚だろうか?イルカやクジラならたまに部屋の横を泳ぎすぎるとき、たわむれてか威嚇のためか部屋に体をこすりつけてくることがあった。しかしイルカがわしに用事があるとは思えんしな。よしんばあったとしてもヒレを器用に使って部屋の壁をたたくとはもっと考えにくい。では何事が起こっているのだ?王は音がしている壁の下のほうに警戒しながら耳を近づけていった。何かが壁を引っかいている音が聞こえてきた。そしてその音の奥からもう王が忘れかけていた、人間の声がたしかに聞こえてきた。
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第122回
王はなつかしくむかしを思い返しながら口をつぐんだ。波に圧迫されて部屋が軽くきしむ音が聞こえてきた。王はまた小便入りの水で口をすすいだ。遠くの方でかすかに鳥の鳴き声が聞こえてきた。その声にバターは敏感に反応したが、すぐにそんなことがあったのも忘れておとなしく座って王の話に耳をかたむけた。 「おふくろが死んだのは、それから数年たってからだった。」王が静かにそしてひとつひとつ思い出すように話した。「結局はおふくろが一番きらいだった弱い人間に足元をすくわれたかたちになった。あれは忘れもせん、馬もへたばるくらい暑い日だった。水平線上でなにかきらきらと光るものが見えたのだ。はじめその光を遠くに見つけたときは、ひとりふたりと町のひまなやつらが海岸に集まってきて不思議そうにそれをながめてただけだったが、ちょっとすると近くの海で漁をしていた漁船が大急ぎでこっちに帰ってくるのが見えた。そいつは船のへさきに立ってこっちに向かって両手を振ったりとびはねたりして何か叫んでるんだ。やっと声が聞こえるところまで来ると、そいつは『逃げろ、逃げろ』と狂ったみたいに叫んでおった。わけを聞いてみると『とんでもなくでっかい船がこっちに向かってやってくる』って大騒ぎしておったんだ。そして町中にそのうわさが広がって焼けるような砂浜に大勢のやじうまが集まったときには、きらきら光る船の形が見分けられるくらいに近づいていたんだが、わしもおふくろと一緒にそれを宮殿から見ておった。その船は高慢な金持ちが貧乏人に自慢するかのようにゆっくりときらきら光りながら近づいてきた。そして見せびらかすようにわしらの前でくるくるくるくる時間をかけて旋回しだしおった。それにしてもとてつもなくバカでかい船だったな!ごてごてと見たこともない装飾がそこらじゅうにほどこしてあって、それが陽のひかりを浴びて宝石みたいに輝いておった。町で一番大きいわしらの宮殿よりも大きな船でな、しばらくすると浅瀬に乗り上げないように用心しながらぎりぎりまで岸に近づいて宮殿のすぐ目の前でイカリを下ろしはじめた。町中『見たいけどこわいし、こわいけど見たい』という好奇心と恐怖で大混乱になってたし、宮殿の中でも大臣たちが右往左往しておったけど、わしとおふくろだけは冷静を失わんかった。おふくろは兵の配備だけ指示すると、じっと船をにらんで身動きもしなかった。海岸沿いに兵隊の配置が完了したとき、その船から五、六人乗せただけの小さな船が下ろされて、こっちに向かって漕いできた。そして兵隊に囲まれながらそいつらがおふくろの前につれてこられてきた。そいつらはみんな乗ってきた船とはまったく正反対の質素な身なりをしてたんだが、先頭に立って出てきたやつだけが、濃紺のマントを首に巻いておって、細くて長いひげを口の両端からとあごの先から伸ばし、頭には真っ赤な円錐の帽子をかぶっとった。そしてそいつはおふくろの前でうやうやしく頭を下げてみずからを『団長』と名乗り、『この国でわれわれの宗教を布教させる許可がほしい。そしてその目的のためにはるばる一年の航海を経てこの国にやって来た』と言って横にいた男に持たせていた大きな箱のふたを開けながら差し出した。なかには赤や黄色や緑の宝石がつまっていた。おふくろはそれには目もくれず、まずそのやつらの宗教というのはいったいどんなものなのか団長に尋ねた。すると団長はていねいに『死後のさまよう魂をすくうための宗教』と説いた。そこには特別目新しいものは見当たらなかった。やつによると、『生前の行いを正し、われわれの奉る神に祈り、安らぎに満ちた世界へと魂を導く』というものだった。おふくろはそこで、たいした害はないとふんだのだろう、団長に向かって、やつらが布教している間、やつらが乗ってきた船に立ち入らせ、やつらの持っている造船と操船の技術をわしらに教える、という交換条件で布教を許す、と伝えた。それに対して団長は、もったいぶった様子で『われわれには何も隠すものはない。あなた方に伝えられるものはすべてお伝えしよう』と承諾した。それからはわしらの国の人間にとって、やつらは驚きの連続だった。船のなかには布教活動をするための人間がまだ百人くらいいたんだが、みんな一年以上の長い航海を経てきたはずなのに、誰ひとりやつれた人間がおらんのだ。みんな陸の人間より健康そうで、しかもふつうの船乗りのように荒くれてもおらず宮廷暮らしの貴族のように色白でしなしなしておった。なぜならやつらの船では野菜を育てたり、家畜を飼ったりできるようになってあってな、それにどういうわけなのかやつらの船は、甲板に出なくても船のなかから自由に操船できるように作られてあったんだ。とにかくなにもかもが目新しくて豪華だった。案内してくれたやつが『われわれの国ではいま、空を飛ぶ飛行機というものを開発中で、完成のめどはだいたい立っている。完成すればわれわれの国からこの国までおよそ航海の百分の一くらいの速さで到着できるでしょう』とかぬかしてやがった。へ、へ。本当かどうかわからんかったが、目の前でものすごい船を見せられたもんだから説得力はあった(もっともあれから何十年もたってるが、いまだに空を飛んでる飛行機とやらは見たこともないがな)。そしてわしらがやつらの船に熱中してる間に、やつらはクモの子を散らすように町の中にまぎれこんでいったんだが、そのときはまさかやつらと一緒にわしの国に病原菌をいっしょに持ち込んでるなんて考えもしなかった。じっさいわしらは夢中になりすぎていたんだ。自分の国のことを忘れるくらいにな。おそらくそれもやつらのねらいだったんだろう。わが国の宮殿にいた少しでも頭のいいやつは毎日みんな船に乗り込んで夢中になっていたもんだから、町のなかで起こっていたことにまったく気がつかなかったんだ。いったい何が起こっていたと思う、バター?まったくおそろしいことさ!いままで考えたこともないようなことがじわりじわりと民衆の間に広まっておったのさ。はじめにその兆候があったのは、やつらが来てからひと月ほどたってからだったかな。町の市場の真ん中で、台の上に乗った男がふたり肩をくみあって大声で演説をはじめおったんだ。すぐに取り押さえられて、集まっていたやつらも解散させられたんだが、真昼間にしかも市場の真ん中でこんなことが起こったのは初めてのことだった!この国では聞いたこともないことだった。でも宮殿にいたやつらは、おふくろもふくめて、まだ船に夢中だったからあまり気にとめなかった。でももうひと月もするとまた同じようなことが起こった。そして今度は演台に五人も肩をくんで立っててしかもその内のひとりは女だったんだ。これはもう普段ならとんでもないことだったんだが、まだわしらは団長が乗ってきた船に没頭しておったんだ。町でそんな奇妙なことが起こっても、冬に狂い咲きした花でもみるようなかんじで、そこに何も深刻な問題を見出せなかった。うかつだったさ!もう少し早く手を打っておれば、この時点ではまだなんとかなったかもしれなかったのに。でもいまさらそんなことを言ってもはじまらん。時間とともにその病菌は根深く民衆のあいだに根ざしていったんだ。さらに何度もこの不可解な演説が繰り返され、そして繰り返されるたびにその演説をするやつらの数が増えていったし、それに反応する聴衆ももう見過ごせないくらいに大きくふくれ上がっていった。しばらくたって大臣たちが町で何が起こっているのかさとったときにはもう取り返しのつかないことになっていた。いったいこの演説でこの町のさもしい連中は何を訴えていたと思う?平等だよ!みんなで肩くんでこの国で平等を訴えておったんだ!そしてこの考えはもともと団長の持ってきた教義によって広まってたんだ。あの船に乗ってきたやつらはこの国で平等を教えておったんだよ!『神の前では人間はすべて例外なく平等だ。人間に優劣はなく、他を抜きん出ようとする者はその分だけ神に罰せられることになるだろう。故に人間を支配することができるのは神のみである。』わしらの鼻の下でやつらはこんな教えをひろめてやがったんだ。わしらが船に熱中してるあいだに、やつらはこの国を煽動してたのだ。この国はむかしから常にちからの強いやつが弱いやつらを従えてきたんだが、やつらは弱いやつらを集めて『強いやつは本当は強くない、強いのは神だけだ』って吹聴してまわったんだ。まったくの茶番だ!やつらはたとえば道でくたばりそうになって弱ってる婆さんをみんなに見せて、『見てください、このかよわい婆さんを!見てください、この苦しげに刻まれた顔のしわを!何の因果でこの婆さんはこんなに苦しまなければならないのか?不当にまわりの人間からさげすまれ、見捨てられているのか?あなたたちにたずねるが、この婆さんはわれわれよりも劣っているとお思いですか?この人生の荒波を乗り越えてきて、人生の終局を迎えている婆さんはもっとましな、せめて普通の人間のように威厳を持って死んでいくことはかなわないことなのでしょうか?』っていうぐあいさ。『あの宮殿でぬくぬくと暮らしているあの人間たちとこの婆さんにどんな差があるのでしょうか?』こんな説教を繰り返しているうちに、町のバカ連中が真似をしだしたんだ。でもこういう考えは毒さ、とても体に悪い毒なんだ。そしていちど中に入るともう二度と取りのぞくことのできない猛毒なんだよ。弱いやつらは勘違いしてしまった。強弱のない世の中ができると思い込んでしまった。強いやつらに、強くならずに卑屈になって生きなければ罪悪だと教えてしまった。でも他を従えるために生まれた者をのぞいて、どうやって従うためだけに生まれたようなやつらが世の中を動かせる?こんなのは欲に目がくらんだだけさ。おとなしく暮らしてりゃよかったのに、妙な考えを吹き込まれたせいでできもしない踊りを踊らされてしまった。そしてわしらの存在を、ちからで押さえつけるわしらを追い出そうとしはじめた。おふくろは地団駄ふんで口惜しがっておったよ。団長を捕まえてその首をはねさせようとしたんだが、やつらはそれを予測してたかのようにそうそうと船に乗って逃げていきやがった。しかたなしにおふくろは次に急いでこの短期間のあいだにはびこってしまった宗教を弾圧しにかかり、『この宗教に従うもの、また平等を叫ぶものはすべて弁明の余地なく死刑』と触れさせた。でももう手遅れだった。この宗教はすでに宮殿にまで伝染していて、団長の息のかかったやつらが国を牛耳ってておふくろの言うことをもうだれも聞こうとしなかった。おふくろは気が狂ったみたいになって、無理やりにでも弾圧を断行しようとしたんだが、まわりの者に阻まれてある日寝てるあいだにあっけなく殺されてしまった。ほんとうにもうまるでゴミでも捨てるみたいな気軽さで、あっさりと宮殿から抹殺されてしまった。おそらく団長の計画では、おふくろを殺してまたこの国に舞い戻ってくる予定だったんだろう。おふくろの死を聞かされたときは、わしはくやしくて、くやしくてそのとき初めて泣いたんだ。なによりもくやしかったのが、このわしのおふくろが、なんでもないバカな連中に殺されたことだった。でもわしは必ずかたきを打つと誓った。わしはまだ幼かったんだが、ひとりでも信用できる人間を見つけて、あらゆる手段を使ってまず宮殿の中から団長の息のかかっていそうなやつらをすべて殺していった。そして国の中もおふくろが最後に出したお触れのとおり、この宗教にたずさわる者たちすべてを殺してやった。団長がこの国に帰ってきても、もうどこにも根をはる隙間も与えないようにきれいさっぱりと。そしてしばらくするともう平等なんて口にする者はいなくなった。わかるか?もともとが根の弱いやつらさ。すこしちからを見せられるとやつらはもうみんななびくようにわしに従いだすんだよ。このときに確信したんだ。こいつらには決して上に立つことはできないと。こいつらには国を任せることはできない。そう!やつらはどこまでも意気地のない人間なんだ。ハ、ハ。決して夢を見させないことさ。それさえ気をつければ、それさえ気をつけていればよかったんだが…、わしは油断してたんだ。まったくうかつだった。まだ根を絶やすことができてなかったんだ!まだあの宗教の生き残りがいたんだ!猛毒は治療できていなかった。まさか何十年もたってからあのババアが出てくるとは思わなかった。あのババアはあの男をそそのかして、気がついたらわしを蹴落としてわしをこんな目に…。」 王はここでくやしそうに宙を見つめて口を閉じた。バターもだまって天井を見上げた。 「わしはまだあきらめておらん。」王は宙に握りこぶしを作って言った。「わしにはまだやりのこしたことがあるんだ。こんなところで死んでたまるか!わしはどうやってもまたあの国に戻ってみせる。そしてそのときは必ずわしとやつらの違いを見せつけてやるんだ。わしがどういう種類の人間かを思い知らせてやるんだ。そして自分がどれだけ情けなくてみっともない人間なのかも気づかせてやる。ハ、ハ、ハ…」 第121回
王は懐かしそうにつぶやくと、吸い終えた卵のからをくしゃくしゃにつぶしてばりばりと食べだした。そして自分の小便が少し混じった水を口にふくんで、ゆっくりと染み込ませるように飲みこんだ。バターはおとなしくそれを見ていた。そして王はため息をついた。穴のあいた天井から青い空が見え、なまあたたかいが新鮮な風が吹き込んできた。部屋はうすい波にゆりかごのように揺れていた。 「おふくろはわしをよく床に突き飛ばしたり、鞭でたたいたりしたもんだ。それもまったくの無表情でな。『ぜったいに弱音ははくな』ってよく言われたもんだ。『弱音をはくやつは、弱い人間だけだ』って。『おまえは弱い人間になる人間じゃあないんだ』ってな。そしてわしが十歳くらいになったときおふくろがわしの部屋に十人くらい子供を連れてきたことがあったんだ。そいつらはみんなそのあたりの小さな通りで遊んでいた町の小汚いやつらなんだが、突然むりやりにわしの王宮に連れてこられたもんだからお互い不安そうに目を見合わせておどおどしておった。みんなわしと同じくらいの歳でな。なかにはわしよりも体の大きなやつもいたんだが、いったいこれから何が起こるのか想像もつかなかったんだろう、ぶるぶるとおびえておったんだ。わしにも何がおこっているのかまったくわからんかった。するとおふくろが何の合図もなしに細い鞭を振り上げたかと思うと、一心にこの子供たちを殴り始めたんだ!まったく容赦呵責もなかった。子供たちはわけもわからず恐怖にかられて悲鳴をあげて、ひとかたまりになって部屋の隅に追い込まれたんだが、それでもおふくろは手を休めなかった。さんざん殴るだけ殴って、子供たちが恐怖と痛みで立ち上がれなくなると、急にふりむいて、今度はわしのほうに近寄ってきたんだ。そしてその手にもった鞭をわしに振り上げた瞬間、わしにはもう何が起こっているのかすべてはっきりと理解した。なぜわざわざおふくろがみすぼらしいこの子供らをわしの目の前で打ちのめしたのかわかったんだ。わしはとっさに『この鞭から逃げたらだめだ』と思った!『こいつらみたいに臆病になったらだめだ』って自分に言い聞かせながらおふくろの鞭をがまんしたんだ。わかるか、バター?わしはあんなやつらと同じじゃないんだ。わしにはもっと高貴な血が流れておる。わしはやつらと同じじゃないんだ!そのときわしは骨のずいまでわかったんだ。何かがわかるか?それは弱い人間はどのようにして生きているか、さ。やつらは恐怖に支配されて生きてるんだ。やつらは何に対しても立ち上がることができないんだ。のしかかってくるものに対して、ただただかたまりあってこわがるしかできない。そしてあのときあんなにも自分が高貴に感じられたことはなかったな。民衆とはっきりと一線を引けたことがうれしくてならなかった。おふくろはあれでわしがどういう種類の人間なのかを教えてくれたんだろう。」 第120回
だから王がバターの卵をとり上げて、ひまつぶしに話し始めた王の個人的な話はおそらく王にとって生まれて初めてのものだった。バターは、かさかさにかわいた王の唇から音をたてて吸われる自分の卵をうらめしそうにながめながら王の話におとなしく耳をかたむけた。それはいままで誰にも語られたことのなかった、当時女王だった王の母の死についてであった。 「わしのおふくろはな、王だったおやじがまだわしが幼いころ病気で突然死んだあとに、おやじの代役として女王になったんだ。おやじは病気がちだったみたいだが、おふくろはそれこそ人を治めるために産まれてきたような強い女でな、女だからといってバカにするようなやつがいればすぐにそいつの首ははねられたもんさ。はじめおふくろが女王になったとき、まわりの人間はどうやっておふくろを自分の影響下におくか、それとももっと直接的にどうやっておふくろを押しのけようかそんなこと考えるやつらばかりだったんだ。そいつらにとったら女が王になったことが、自分たちがのしあがるための絶好のチャンスにみえたんだろうな。いじわるいやつだと『女なんかに政治ができるか』とか『そのうち泣き言でもいって誰かにすがりつくだろう』とかおふくろの耳に聞こえるように陰口をたたくやつもいたもんだ。でもおふくろはそんな陰口にも眉ひとつぴくりとも動かさない。かえって相手に笑顔さえ見せてやっておった。そして周到に用意したんだ。例えばあるときその陰口をたたいた大臣の家で夜中に突然叫び声が聞こえた。家中大騒ぎになって原因を探ってみると、大臣の幼い息子が手から血をふき出しながら泣き叫んでる。見てみると指を一本切り落とされていたんだ。翌日大臣があおい顔をして会議に出てみるとおふくろから小さなふくろを手渡された。開けてみてそこに入ってるものを見つけると大臣は女みたいにみじかく悲鳴をあげよった。ク、ク。『さがしものでしょう?』おふくろは大臣に言ってやったんだ、『大事なものなんでしょう?こんどはなくさないよう気をつけてあげなさい』って。ヒ、ヒ。あとほかに、おふくろにくちばしばかりはさんでくるやつの場合は、その男は男色家だったんだが、その密会現場をそいつの妻と娘におさえさせて、あらゆる軽蔑の言葉を投げかけさせて、そいつがすっぱだかでうろたえてるところにゆっくりとおふくろが出ていってな、わざと何にも気づいていないふりをして、昼間に話してた仕事の用件とかを真剣にきりだすんだ。ハ、ハ、ハ。そしてあたふたしているそいつを目の前に、自分の思い通りに用件を進めていったんだ。半年もするともう誰もおふくろにはむかうやつはいなくなったな。たとえいたとしてもすぐにそいつの行動はおさえられ、二度と起き上がれないくらいに叩きのめされるか、この世から消え去るか、ふたつにひとつだった。あのうむを言わせぬ行動の速さは見習うべきだと思ったよ。そんなおふくろにはわしもずいぶんと鍛えられたもんだ。」 第119回
「いいか、みてろよバター。」王は作業をつづけながらバターに話しかけた。「いずれはあの男を、このわしをこんな境遇に落としいれたあの男をひねりつぶしてやるからな。わしから奪った場所から引きずり落としてやる!わしをこんな目にあわせやがったんだからな、覚悟するがいいさ。まさかまだわしがこうして生きているとは思わんだろう!まあせいぜいいまのうちだけ安穏と暮らしてればいい、ク、ク、ク。おまえにもやつの無様な姿をみせてやるからな、バター!ひどい目にあわせてやるんだ。少なくともわしのいまの苦しみは味わってもらう。なにがいいかな?やつの自慢の娘を目の前で引き裂いてやるのもいいかもしれん。へ、へ、へ。高慢ちきな娘でな。自分の容姿をいつも鼻にかけてるようなあばずれなんだ。わしがまだあの台座に座っていたときは、しきりにわしに色目なんか使っておったが(まあわしは目もくれてやらなかったがな)、立場がかわるととたんにわしをあざけるようになりやがって…。そうだ!父娘ともども素っ裸にして市中引き回しにしてやってもいい。ハ、ハ。市場のど真ん中にふたりともおりの中に入れておくのもおもしろいかもな。それからそうだな、あの男をうしろから操ってるあの汚らしいババアにもひとあわ吹かせなきゃならん。妖怪のように太ったババアだから、生きたまま豚どもにその贅肉を食らわせてやろうか?それともそうだな…煮え湯でも飲ませてやろうか、なあバター、どう思う?ク、ク。必ず後悔させてやる。そしてそれまでわしは絶対に生き延びてやるんだ…。そうだ、バター!わしがもとの地位に戻ったあかつきには、お前を大臣の位につけてやるぞ。心配する事はない。反対するやつらはすべて追っ払ってやるから。そしてお前の好きな魚を毎日いやというほど食わせてやる。」 バターは一人ぼっちで暮らしてきた王の話し相手になっただけではなく、ときおり与えられた自分の巣で卵を産み、王に栄養の補給もした。そんなとき王は大喜びで、さわぎたてるバターから卵をとり上げ、丸々とふくれたその腹に小さな穴をあけて、そこから黄身を吸い出しながらうれしそうにまたバターに話しかけた。そんなとき王は、いままで誰にも話したことのないような、王のナイーブな内面についてまで話した。じっさい王はこの刑で国から追い出されるまで、いっさい自分のことについて打ち明けたことはなかった。もちろん自分と同じ目線で話し合える相手がもともといなかったということもあったのだが、たとえいたとしても王は決して自分の悩みや奥底でうごめいている感情など表にださなかったであろう。王がまだ王であったとき、その口から発せられる言葉はほとんど他に下す命令だけでしかなかった。そのいちにちは「たらいを持ってこい」「上着を持ってこい」「朝食を持ってこい」で始まり、そして「今晩はあの女を(寝室に)入れておけ」「(女に向かって)もうさがっていい。部屋から出るときには灯りを消しておけ」という命令で終わった(王は誰にも自分が眠る姿を見せるのを好まず、眠るときは必ずひとりで眠った)。執務中も助言を求めることはなく、ひたすら命令を下すことで終始し、必要でないこと以外はめったに口にしなかったし、たまに難しい決断に迫られるとおもむろに執務室にある大きな窓まで歩いていき、そのとき吹いている風の向きによってその決断を下したりした。王は気に入って何度もその寝室に迎えた女にさえ、命令以外で言葉を交わそうとしなかった―「もっとあごをだせ」「腰をあげろ」「なにをためらってるんだ。早くこれを開けろ」。たまにだす王の怒りの感情も、内面の発露と呼ぶよりも反対に自分がどう思っているのか隠すためのものだった。悲しみもよろこびも、憎々しい皮肉な笑いとそれに続くおそろしい形相で王の内面の奥底にしまいこまわれた。 第118回
ある晴れた日の午後、王はいつもの方法でカモくらいの大きさの真っ黒な鳥を捕まえると、その鳥の顔をまじまじと見つめ、何を思ったのか翼の羽を半分くらいだけむしりとってそのまま部屋に放してしまった。不幸な鳥は飛翔力のなくなった翼を何度もばたつかせて部屋中に黒い羽をまきちらしていたが、飛べないとわかると所在なげに部屋中を迷子のように歩きまわった。王はこの鳥を『バター』と名づけた。そして部屋の隅にやわらかい羽をあつめてやって、このバターのために巣をつくってやった。バターはまだ自分が飛べなくなったことが理解できないらしく、何度も何度も飛び上がろうと試みていたが、王はそれをいかにも満足げに自分の極彩色に彩られた寝床から見下ろしていた。わしにもついに家来ができたか!王はうれしそうにつぶやいた。バターは王のひまつぶしになると思ったのである。食糧が充分に保存されてある日などは、ゆったりと自分の寝床に寝転びながらバターがいそがしそうに部屋を歩きまわるのを見て楽しんだ。ときおりバターは、眠る王のそばでガーガー鳴きたてたり、王の上に乗って体中をついばんだりしたが王は一向に腹を立てるようすもなく、孫をしかる祖父のような愛情を持ってバターを追い払った。 バターはじっさい、王の孤独のなぐさみになった。漁を終えたあとたらいで海水をすくいだしているときなど王は、数匹の魚をバターのために残しておいてやり、すぐそばで気持良さそうに浮かびながら魚を食べているバターを相手に話しかけたりした。また王が日干しや、肉の解体作業を行なっているときも親しい友人を相手にするように話しかけたりした。このようにして王は自分の孤独と付き合う方法を見つけていった。 第117回
この保存食の精製は王の食生活に革命とも言い得るものをもたらしたのだが、さらにこの加工工程において、王にとって思わぬ副産物ができた。それはこの箱の上に並べられた干し魚を狙う様々な鳥だった。そのなかには、かもめもいれば、渡り鳥のツバメや雁、そして王がいままで見たこともない大きな白い鳥などもいた。はじめはこれら大切な食糧を盗んでいく鳥たちに対しなす術もなく、王はただただ地団駄を踏んでいたのだが、鳥たちが大胆にも天井の穴近くにまで近寄ってくることを知り、なんとか捕獲することはできないものかと発想を転換してみた。王はいちど試しに穴のすぐそばに魚を置いてみた。すると鳥はちょっと思案するように天井をぺたりぺたりと歩き回っていたが、最後には穴のすぐそばまで寄ってきて魚をくすねて飛び去っていった。穴のすぐそばまで寄ってくることを知ると、次に王は穴のすぐ下で待ち伏せることにした。王は穴のふちに魚を置いて、樽の上にのぼり、そのすぐ下で鳥から見えないように体を隠し、息をころして次の鳥が来るのを待った。そして同じように(おそらく同じ鳥が)迂回するように天井をぺたりぺたりと歩いて穴に近寄ってくると、全神経をこの鳥に集中させ、手を伸ばせば届く距離に入ったとみた瞬間、両手を勢いよくだしてこの鳥の首をつかんだ。穴の中に引きずりこまれる鳥も必死に抵抗したが、王も必死だった。両手を放さないように暴れまわる鳥を押さえつけ、首をしめて窒息させた。それは緑や青や黄色で体を彩った、見たこともない極彩色の鳥だった。思いがけない収穫に王は喜び、しみじみと鳥に羽がついていることを不思議に思ったものだった。こいつらがもともと飛ぶことができなかったら、こんなところでわしに食べられることもなかったのにな。王にはまるで海の上にいる王のために、羽をはやして食糧になるべくこの鳥は飛んできてくれたように思えたのだった。王は鳥の体の羽をむしりとると、鳥の両足を持ってちからまかせに体を左右に引き裂いた。血を抜いて内臓を取り除き、皮をはいで肉を取りだした。この鳥のくちばしは鋭くとがっていたので、これを使うと簡単に解体作業をすすめることができた。必要のないものは何もなかった。内臓は海にばらまくと魚が寄ってきて、漁をするときに役立ったし、羽は寝床にしきつめると温かかった。骨は軽くて丈夫だったので、解体するときの簡易ナイフにもなったし、皮をなめすときのこん棒のかわりにもなった。また皮の裏にある油分をへらのような骨でかき集めておくと、けがを負ったときの膏薬になったし(じっさい鳥の捕獲には生傷が絶えなかった)、壁に塗っておくと木材の腐食を防いでくれた。天井に干して一日置いた鳥の肉は、種類にもよったが概して魚しか食べていない王にとって美味であった。加減しながら海水に浸して塩味をつけて食べる工夫もみつけた。さらに運が良いときには、これらの捕らえた鳥のなかに、胃の中に収めたばかりの魚やイカをみつけることもあった。まれにしか鳥は捕獲することができなかったが、鳥の捕獲をおぼえたことにより、王の食生活はゆたかに彩られることになった。 第116回
しかし王の決断とはうらはらに、王はこれから頻繁に外に出なければならないはめになった。その場所は生きていく作業の延長線上に必要とされたのである。王は部屋に戻ると、ひりひりと焼けた自分の皮膚をさすりながら、ふとあの平たい天井の面積を利用して、魚の天日干しをつくってみようと思いついたのであった。あそこになら日干しを作るうえで充分すぎるくらいの熱があるだろう。もし成功したなら食糧を長期にわたって保存することができる!王はいそがしそうに仕事にとりかかった。樽に泳いでいる魚を数尾捕まえ、動かなくなるのを確認してから天井に並べてみた。結果は素晴らしいものだった。その日いちにち外に干した魚は、嫌な臭いを発してはいたが、上手い具合に干からびて、味の方も数段よくなったように思えた。問題は、もともと魚が小ぶりなので、干してしまうと思ったよりも小さくちぢんでしまうことだった。これは数をこなすしかないな。王はそう考えるとさっそく翌日から漁に精をだしはじめた。 方法は以前と同じで、床のコルクの栓を抜き、海水といっしょに魚が紛れ込んでくるのを待つやり方である。しかしこれは思ったよりも困難をきわめた。まず、穴の大きさが小さすぎるので、海水を吸い上げるちからが弱く、思ったように魚がかかってくれない。そしてこの方法は穴の大きさによって獲れる大きさも決められてしまうので、つかまる魚も小さなものにかぎられてしまう。前回は偶然魚の群れが床の下を泳いでいたので、たくさんの魚を捕獲することができたが、群れがいないと極端に捕獲量が減ってしまった。さらに、漁を終えた後、たらいでもって水をかきだす作業は王にとってとても負担がおおきかった。一日でこの作業を三回も繰り返すと、翌日は体がいたんで一日中動けなくなってしまった。そして努力にともなう成果が少なすぎるのも手伝って、疲労が余計におもく感じられることもあった。漁をする場所を選ぶことができないことも、なんといっても不利であった。そのときその場所に浮かんでいるところでしか漁ができず、偶然にまかせる割合が高くなってしまう。一日中骨がきしむくらいに働きとおしても、成果は小さな魚一匹、ということもあった。もっとも、悪い事ばかりではなさそうだった。魚は取れなくても、ざるですくわなければ取れないくらいの小さな微生物は幸いにしてこの海水からふんだんに獲ることができたのだ。これらを王は布で丹念にすくい上げ、まとめて天井に干して非常食として保存しておいた。大半は風で吹き飛ばされることになるのだが捕獲量は比較的安定しており、毎日獲りつづけると一定の量を保持することができ、魚がない日はこれを主食として頼ることもしばしばあった。 第115回
王はやぶれた天井から青空をにらみ、生唾を飲んで樽にのぼり穴のふちに両手をかけた。壁を壊さないよう慎重に体を持ち上げ、穴から頭を出してみた。部屋がすこしかたむいた。しかしこの箱の下部に張りめぐらされた鋼鉄による復元力のおかげで、部屋は転倒しなかった。箱の外ではさわやかな風が王の頭上を通り過ぎていった。それから葉の上にのったさなぎからぬけ出す蝶のように、王は両手でけんすいをするように体を持ち上げてゆっくりと上半身を箱から外に出すと、きしみに注意を払いながら体重を天井にのせて両足も外に出した。抜け出ることに成功すると王は波で揺れる不安定な箱の上から転げ落ちないように天井の中央まで両肘をつかって這いすすみ、そこでぐったりとちからつきたように箱の上に寝そべって動かなくなった。長いあいだ外に出なかったので、ふりそそぐ太陽の光の量に圧倒され、目をあげることができなかったのだ。じりじりと光の熱が王の肌を焦がしているのを感じた。光とはこんなにまぶしいものだったのか!顔をふせながら王は感激と怖れを感じながらつぶやいた。熱した肌を冷やすように部屋のにおいのまじらない新鮮な風が吹き抜けた。部屋の中と外ではこんなにもちがった風が吹いているのか!王は驚きながらつぶやいた。産まれたての子供が胎内から出てはじめて下界と接触をもったときのように、王は世界との関係をすべてはじめからやり直さなければならないのだ、と感じた。 王はおそるおそる顔を上げてみた。ゆらゆらと揺れる箱の上で腹ばいになって見たその風景は、生き物のまったくいないどこまでも続く海だった。王はこんなにも孤独を実感したことはなかった。四方どこを向いてみても海面が広がっており、水平線は海面からわく蒸気のせいでくすんで判別できず、距離感をつかませない。こんなにも長い時間、こんなにも広い所でわしはひとりだったのか。四方の壁を取り払われた王はつぶやいた。部屋の中にいる間は、美しい妄想にとらわれる囚人のように王の想像力も一人歩きしていて、現実を忘れさせていたのだ。部屋の中での船酔いの苦しみや、食糧や水を確保するための戦いに忙殺され、大海原にひとりで浮かんでいることを忘れていたのだ。こうしていまひとりで箱の外に出てみると、部屋の中での生存をかけたすべての努力が茶番に思えた。こんなにも孤独だったのである。言葉を交わす相手は見わたすかぎりどこにもいない。こんなことなら箱の外に出るんじゃなかった。王は後悔した。知らなくてもよいことはあるんだ。しかし、ここにはさわやかな風が吹いている。それにいくら茶番だとしても、部屋に帰らなければ飢え死にしてしまう。王は打ちのめされたように箱の中に帰っていった。王が王であるためには茶番も必要だったのである。部屋にもどって四方を壁に区切られると王はとたんに元気をとりもどした。そして部屋の中での仕事が茶番とはとても思えなくなった。それから王は、よほどのことがないかぎり外に出るのは控えよう、と決心した。 第114回
翌日、太陽が昇ると明け方までつづいていた雨はあがった。そしてその日は雲ひとつない青空がひろがっていた。なまあたたかい風が天井からも吹き込んできた。幸い天井の腐食はこの部分だけしかなく、中央部に梁を通された天井はまだしっかりとその役割を果たしていた。王は寝床に寝転びながら、むっつりと天井にあいた穴から青くさえわたった空をながめていた。遠くの方でかもめが鳴いているのが聞こえた。心地良い風と、部屋にぶつかる波の音が、ささくれだった気分をなだめた。ふと、いままで考えてもみなかったことが思い浮かんだ。この穴から外に出られるんじゃないか?王はこれを興奮なしに考えることができなかった。もうかぞえてみることもできないが、ゆうに一月以上も同じ部屋で生活してきたし、海原の真ん中に浮かんでいたので外に出てみようという考えすら浮かばなかったが、いまさらになってみてこの考えはとても魅惑的なものに思えた。もちろん抜け出たところで何ができるわけでもないのだが、この部屋に閉じ込める、というのがこの刑の一部でもあったわけなのだから、それをくつがえすことができるのは王にとって痛快でもあった。またこの変哲のない無愛想な壁をながめながら過ごすのにも鼻がついてきていた。この部屋から出ることを考えるだけで、胸の内にはたはたと心地良い風が吹き抜けていくようだった。そしていままで気にしたこともなかったこの部屋のシミだらけの木の壁にしみついた、あぶらじみた臭いが気になりだした。まるで脱出の可能性をみせられた長期囚人のように、囲われた空気がうとましく感じられ、外の空気を吸わないことには窒息してしまいそうに感じられた。 |
木鳥 建欠
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