第116回
しかし王の決断とはうらはらに、王はこれから頻繁に外に出なければならないはめになった。その場所は生きていく作業の延長線上に必要とされたのである。王は部屋に戻ると、ひりひりと焼けた自分の皮膚をさすりながら、ふとあの平たい天井の面積を利用して、魚の天日干しをつくってみようと思いついたのであった。あそこになら日干しを作るうえで充分すぎるくらいの熱があるだろう。もし成功したなら食糧を長期にわたって保存することができる!王はいそがしそうに仕事にとりかかった。樽に泳いでいる魚を数尾捕まえ、動かなくなるのを確認してから天井に並べてみた。結果は素晴らしいものだった。その日いちにち外に干した魚は、嫌な臭いを発してはいたが、上手い具合に干からびて、味の方も数段よくなったように思えた。問題は、もともと魚が小ぶりなので、干してしまうと思ったよりも小さくちぢんでしまうことだった。これは数をこなすしかないな。王はそう考えるとさっそく翌日から漁に精をだしはじめた。 方法は以前と同じで、床のコルクの栓を抜き、海水といっしょに魚が紛れ込んでくるのを待つやり方である。しかしこれは思ったよりも困難をきわめた。まず、穴の大きさが小さすぎるので、海水を吸い上げるちからが弱く、思ったように魚がかかってくれない。そしてこの方法は穴の大きさによって獲れる大きさも決められてしまうので、つかまる魚も小さなものにかぎられてしまう。前回は偶然魚の群れが床の下を泳いでいたので、たくさんの魚を捕獲することができたが、群れがいないと極端に捕獲量が減ってしまった。さらに、漁を終えた後、たらいでもって水をかきだす作業は王にとってとても負担がおおきかった。一日でこの作業を三回も繰り返すと、翌日は体がいたんで一日中動けなくなってしまった。そして努力にともなう成果が少なすぎるのも手伝って、疲労が余計におもく感じられることもあった。漁をする場所を選ぶことができないことも、なんといっても不利であった。そのときその場所に浮かんでいるところでしか漁ができず、偶然にまかせる割合が高くなってしまう。一日中骨がきしむくらいに働きとおしても、成果は小さな魚一匹、ということもあった。もっとも、悪い事ばかりではなさそうだった。魚は取れなくても、ざるですくわなければ取れないくらいの小さな微生物は幸いにしてこの海水からふんだんに獲ることができたのだ。これらを王は布で丹念にすくい上げ、まとめて天井に干して非常食として保存しておいた。大半は風で吹き飛ばされることになるのだが捕獲量は比較的安定しており、毎日獲りつづけると一定の量を保持することができ、魚がない日はこれを主食として頼ることもしばしばあった。
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木鳥 建欠
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