第114回
翌日、太陽が昇ると明け方までつづいていた雨はあがった。そしてその日は雲ひとつない青空がひろがっていた。なまあたたかい風が天井からも吹き込んできた。幸い天井の腐食はこの部分だけしかなく、中央部に梁を通された天井はまだしっかりとその役割を果たしていた。王は寝床に寝転びながら、むっつりと天井にあいた穴から青くさえわたった空をながめていた。遠くの方でかもめが鳴いているのが聞こえた。心地良い風と、部屋にぶつかる波の音が、ささくれだった気分をなだめた。ふと、いままで考えてもみなかったことが思い浮かんだ。この穴から外に出られるんじゃないか?王はこれを興奮なしに考えることができなかった。もうかぞえてみることもできないが、ゆうに一月以上も同じ部屋で生活してきたし、海原の真ん中に浮かんでいたので外に出てみようという考えすら浮かばなかったが、いまさらになってみてこの考えはとても魅惑的なものに思えた。もちろん抜け出たところで何ができるわけでもないのだが、この部屋に閉じ込める、というのがこの刑の一部でもあったわけなのだから、それをくつがえすことができるのは王にとって痛快でもあった。またこの変哲のない無愛想な壁をながめながら過ごすのにも鼻がついてきていた。この部屋から出ることを考えるだけで、胸の内にはたはたと心地良い風が吹き抜けていくようだった。そしていままで気にしたこともなかったこの部屋のシミだらけの木の壁にしみついた、あぶらじみた臭いが気になりだした。まるで脱出の可能性をみせられた長期囚人のように、囲われた空気がうとましく感じられ、外の空気を吸わないことには窒息してしまいそうに感じられた。
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木鳥 建欠
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