第118回
ある晴れた日の午後、王はいつもの方法でカモくらいの大きさの真っ黒な鳥を捕まえると、その鳥の顔をまじまじと見つめ、何を思ったのか翼の羽を半分くらいだけむしりとってそのまま部屋に放してしまった。不幸な鳥は飛翔力のなくなった翼を何度もばたつかせて部屋中に黒い羽をまきちらしていたが、飛べないとわかると所在なげに部屋中を迷子のように歩きまわった。王はこの鳥を『バター』と名づけた。そして部屋の隅にやわらかい羽をあつめてやって、このバターのために巣をつくってやった。バターはまだ自分が飛べなくなったことが理解できないらしく、何度も何度も飛び上がろうと試みていたが、王はそれをいかにも満足げに自分の極彩色に彩られた寝床から見下ろしていた。わしにもついに家来ができたか!王はうれしそうにつぶやいた。バターは王のひまつぶしになると思ったのである。食糧が充分に保存されてある日などは、ゆったりと自分の寝床に寝転びながらバターがいそがしそうに部屋を歩きまわるのを見て楽しんだ。ときおりバターは、眠る王のそばでガーガー鳴きたてたり、王の上に乗って体中をついばんだりしたが王は一向に腹を立てるようすもなく、孫をしかる祖父のような愛情を持ってバターを追い払った。 バターはじっさい、王の孤独のなぐさみになった。漁を終えたあとたらいで海水をすくいだしているときなど王は、数匹の魚をバターのために残しておいてやり、すぐそばで気持良さそうに浮かびながら魚を食べているバターを相手に話しかけたりした。また王が日干しや、肉の解体作業を行なっているときも親しい友人を相手にするように話しかけたりした。このようにして王は自分の孤独と付き合う方法を見つけていった。
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木鳥 建欠
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