第117回
この保存食の精製は王の食生活に革命とも言い得るものをもたらしたのだが、さらにこの加工工程において、王にとって思わぬ副産物ができた。それはこの箱の上に並べられた干し魚を狙う様々な鳥だった。そのなかには、かもめもいれば、渡り鳥のツバメや雁、そして王がいままで見たこともない大きな白い鳥などもいた。はじめはこれら大切な食糧を盗んでいく鳥たちに対しなす術もなく、王はただただ地団駄を踏んでいたのだが、鳥たちが大胆にも天井の穴近くにまで近寄ってくることを知り、なんとか捕獲することはできないものかと発想を転換してみた。王はいちど試しに穴のすぐそばに魚を置いてみた。すると鳥はちょっと思案するように天井をぺたりぺたりと歩き回っていたが、最後には穴のすぐそばまで寄ってきて魚をくすねて飛び去っていった。穴のすぐそばまで寄ってくることを知ると、次に王は穴のすぐ下で待ち伏せることにした。王は穴のふちに魚を置いて、樽の上にのぼり、そのすぐ下で鳥から見えないように体を隠し、息をころして次の鳥が来るのを待った。そして同じように(おそらく同じ鳥が)迂回するように天井をぺたりぺたりと歩いて穴に近寄ってくると、全神経をこの鳥に集中させ、手を伸ばせば届く距離に入ったとみた瞬間、両手を勢いよくだしてこの鳥の首をつかんだ。穴の中に引きずりこまれる鳥も必死に抵抗したが、王も必死だった。両手を放さないように暴れまわる鳥を押さえつけ、首をしめて窒息させた。それは緑や青や黄色で体を彩った、見たこともない極彩色の鳥だった。思いがけない収穫に王は喜び、しみじみと鳥に羽がついていることを不思議に思ったものだった。こいつらがもともと飛ぶことができなかったら、こんなところでわしに食べられることもなかったのにな。王にはまるで海の上にいる王のために、羽をはやして食糧になるべくこの鳥は飛んできてくれたように思えたのだった。王は鳥の体の羽をむしりとると、鳥の両足を持ってちからまかせに体を左右に引き裂いた。血を抜いて内臓を取り除き、皮をはいで肉を取りだした。この鳥のくちばしは鋭くとがっていたので、これを使うと簡単に解体作業をすすめることができた。必要のないものは何もなかった。内臓は海にばらまくと魚が寄ってきて、漁をするときに役立ったし、羽は寝床にしきつめると温かかった。骨は軽くて丈夫だったので、解体するときの簡易ナイフにもなったし、皮をなめすときのこん棒のかわりにもなった。また皮の裏にある油分をへらのような骨でかき集めておくと、けがを負ったときの膏薬になったし(じっさい鳥の捕獲には生傷が絶えなかった)、壁に塗っておくと木材の腐食を防いでくれた。天井に干して一日置いた鳥の肉は、種類にもよったが概して魚しか食べていない王にとって美味であった。加減しながら海水に浸して塩味をつけて食べる工夫もみつけた。さらに運が良いときには、これらの捕らえた鳥のなかに、胃の中に収めたばかりの魚やイカをみつけることもあった。まれにしか鳥は捕獲することができなかったが、鳥の捕獲をおぼえたことにより、王の食生活はゆたかに彩られることになった。
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木鳥 建欠
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