第77回
「それにしても詩人さんって、いわゆる神のしもべなんだろう?よぼよぼの婆さんなんかに熱をあげてていいのかね?」 「ふん、どうせそんなものなんだろう、聖職者ってやつらも?人生を楽しみたいのさ。さんざん自分では『苦しみを受け入れろ』とか『常に神には感謝を捧げろ』とか言ってたくせに。ほら、みて見ろよ。ふたりで花なんか摘んでやがるよ!」 掃除婦は、向かい合って詩人と話しながら、その間に咲いている小さな黄色い花をひとつ、ふたつ摘んでいた。それは掃除婦が幼いころ、道端で売りさばくために、近所に住んでいた女の子と一緒に近くの高山まで摘みに行った水なしでも咲きつづけることのできる花だった。 「これは、」掃除婦は細い目をしばたたきながら、むかしを懐かしむようにしわがれた声で言った。「私たちのあいだでは『不死の花』と呼ばれているんです。花は水を連想させるでしょう?だからよく水のない砂漠を旅する人たちが、これを買っていったんですよ。花が咲いてるの見るだけで水のないところを旅する人のなぐさみになったんでしょう。」 「この花は枯れないのですか?」詩人が花を不思議そうに眺めながら尋ねた。 「枯れにくいというだけでいずれは枯れますけど…、でもうわさでは三十年間水なしで枯れなかった花もあるそうです。」 「三十年間咲きつづけていたんですか?」 「はい。三十年間。」 「三十年ものあいだ、水もなしでどうやってその生を維持するんでしょうね?」 「母はよくこの花のことを『呪われた花』と呼んでました。死ななければならない時に死なせてくれないから…。この花を見るたびに気の毒そうに同情してましたわ。『何でおまえはいつまでたっても咲いているんだい?さっさと枯れちまえばみんなから自由にさせてもらえるのに』って。前までは母のそういう考え方が悲しかったんですけど、最近は何となく同意できるようになってきました…。実際どうなんでしょう、詩人さん?いつまでも死なないっていうのは、『呪われ』てるんですかね?おもしろいのが、この花が別のところでは『希望の花』と呼ばれていることなんです。その人たちは、この花が何もない空気から栄養を吸い取ってると思ってるんですって。まったく何もないところで気高く、たくましく咲きつづけるから『希望の花』なんだそうです。そう思ってみれば、この花から希望ももらえるんです。」
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木鳥 建欠
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