第71回
「知っているよ。あんたたちの本心は。本当のところあんたたちはこの世の中の不公平に不満たらたらなのさ。あたしたち以上にいらいらしてるんだ。そしてあんたたちは結局あたしたちをなぐさめる振りをして、世の金持連中をおどしたいだけなのさ。『今その富をあきらめなければ、あの世で地獄の業火にみまわれるぞ』ってね。まあ『だからその金を俺たちによこせ』とまであつかましいことは言わないにしても(でもあんたたち坊さんのなかにもそう言う人がいるのも知ってるけどね)『せめて富をあきらめてわれわれとおなじ状態になれ、なぜなら富は人間を汚し、貧は人を洗うから』って言うんだろ。でもね、それはよそでやってくれたらいいじゃないか。なんであたしたちまで仲間に入れようとするんだい?別のところでやっておくれよ。いいんだよ、別に不公平でもなんでも。あたしは別にあんたたちみたいに見苦しくなりたくないからね。だってそうじゃないか?ほかにこんな見苦しいことってあるかい?弱くて未練たらしいやつらが大勢あつまって、自分たちより人生を楽しんでそうなやつらを指差して『ずるい、ずるい』って子供みたいにむずかるんだから。そう思わないかい?あんたも何とか言ってやりなよ。」母親は娘に向かって言った。 娘は申し訳なさそうに詩人を見ると、母親には答えないで黙っていた。 「ふん。別に信仰告白じゃないから言いたくなきゃ言わないでいいけどね。でもこの子だってきっとあたしと同じ意見だよ。あんたなんかに惑わされるには過ぎるくらいのほこりを持ってるんだ。」 「なぜあなたは神の教義をわざとそんなふうに意地悪く曲げてみせるんです?富が人を汚すのは、それが人の心を惑わすからで、貧が人を清くするのは、それが人の愛を育むからと、あなた自身がよく知っているはずじゃないですか。それに…、それにあなたは。本当は神を信じているはずです。」 「ハ、ハ。あんたたちがよく使う手だよ。『実は』とか『本当は』とか『心の底では』とか言って惑わそうっていうんだろ?でもいいかい?あたしは朝から晩まで手のひらがひび割れるくらい洗濯して、この小さな息子ひとりも満足に食べさせてあげることができないけど、あんたの言うカミが必要だともおもわないね…。」
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木鳥 建欠
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