第48回
「どうやら長いこと待たされそうだなあ。」 偶然隣に座っていたうそつきが話しかけてきた。うそつきは足の裏にある魚の目を指先でつまんでいた。そして小さな充血した目を駅長に向けた。疲れているのか、鼻とあごがとんがって見えた。 「雨が降るのは誰かが死ぬ前兆だと聞いたよ。」うそつきは声をひそめて言った。「周りの話を聞いていると、どうやらわしがその候補に上がってるらしいね。」 駅長は気の毒そうにうそつきを見つめた。こういう場合に出すなぐさめの言葉が出てこなかった。 「けどわしじゃあないよ。」うそつきはつづけた。「体調は悪そうに見えただろう?確かに良くないけど、実はね…それほどでもないんですよ、ヘ、ヘ。新参者はいろいろ警戒しないといけないんでね。それにわしはあるお告げを聞いたことがあるんだ。ちょっと込み入った話なんだけど。わしはね、ここだけの話だけど神にも悪魔にも会ったことがあるんだよ。」 駅長は強い刺激臭を嗅いだときのように背筋を伸ばし、目を大きく見開いた。待合室にいる住人達はそれぞれの不安やいらだちなどにかかりきりで、誰もこのうそつきの話に耳を傾ける心配はなかった。部屋は窮屈で、駅長とうそつきは体の一部がくっつくくらい身を寄せ合っていた。駅長はだまって話を聞いていた。 「そんなわしのいろんな経験によるとね、わしはまだ当分死なないはずなんだ。どのくらいかはっきりわからないけど、まだ最低十年は生きられるはずなんだよ。」 住人の汗とため息が充満している待合室では、誰かが苛立たしい声で窓を開けるように怒鳴っていた。 「換気しないとやりきれないねえ。これじゃあ医者に診てもらうまでにくたばっちまう。」 「できればくたばって欲しいもんだ。」別の誰かが別の方角から叫んだ.。「そうすりゃ雨も止んでせいせいする。」 「そうだ!そうしてくれんかい?ここでこんな風に待ちつづけるのはもうこりごりだよ。」 「うるさいね。頼むから黙ってておくれよ。そうでなくてもここは耐え切れないんだから。」
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木鳥 建欠
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