第47回
「降ってるよ。また。」坊主は窓の外を眺めながら言った。「連中はえらく焦ってる。他愛のないやつらだな。へ、へ。」 駅長は、重い体を苦労して起こし、次に死ぬのは誰なのだろう、と坊主に訊ねた。 「さあ誰なんだろうね。けど少なくともあんたじゃあないだろう?あと三日あるんだから。」 駅長はしかし、自分の今の体調に自信が持てなかった。昨夜からろくに眠れていない上に、ハエに午睡の邪魔をされたため疲労がそのまま骨にからみつき、体が自由に動かせなかった。体中の関節に砂がたまっているような、不愉快でもどかしい状態にあった。 「おそらく、向かいのうそつきだろう。」坊主は無表情に言った。「着いたばっかりで気の毒だが、ありゃ長生きしないよ。それにしても、今回はやけに間隔が短いな。こんなに雨に降られると周りのやつらがうるさくてしかたがないよ。」 窓のすぐ外にある濡れた木蓮の花を不思議そうに見ていた坊主に駅長は、坊主も雨で不安になるのかどうか訊ねてみた。 「一応これでも仏に仕える身だからね。へ、へ。」坊主は得意そうに応えた。「それにおれより老いぼれてるのはまだたくさんいるだろ?自分の順番まではまだ時間があるはずだ。」 そして坊主は振り返ると、これから入浴しに行くが駅長も来るかどうか訊ねた。駅長は体調がすぐれないから医務室に行く、と応えると、坊主はつまらなそうに頭を撫でながらすぐに出て行った。 駅長が部屋を出て、だるい体を慎重に医務室に向かって運んでいくと、廊下にはたくさんの住人がたむろしているのが見えた。その横を通り過ぎるたびに、住人たちの絶望の声や悲嘆のため息が聞こえてきた。抱き合って泣いているものもいれば、やけになってふてくされているものもいる。感極まったものは、廊下に転がり意味不明の叫びをあげてもだえている。駅長は医務室に向かって、枯れた木のようになって廊下にあふれている住人たちの間を抜けていった。 医務室に入ると、待合室は医者を待つ住人たちでいっぱいだった。待ち合い用の長椅子はすべて埋めつくされており、あぶれ出たものたちはそれぞれ床に座ったり寝転んだりしていた。皆それぞれ緊張した面持ちで医者に診察してもらうのを待っていた。部屋はため息と不安と悲嘆が息苦しいくらいに充満していた。駅長は床に隙間を見つけると、そこにゆっくりと腰を下ろした。
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木鳥 建欠
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