第200回
「どんなのだった?」 「たとえるならそれは水蒸気のようなもので、ふわふわしていて…。」 「見たことがあるのか?」 「ある。」 「どこで見たんだ?」 「ある女性が神に召された時に。」 「胸から出てくるのか?」 「どちらかというと、身体全体から浮かび上がるように出てきたな。」 「それは誰にでも見れるのか?おれは死人はいっぱい見てきたが、いちどもその水蒸気みたいなのを見たことがないがね。」白髪の男が尋ねた。 「神を信じれば見ることができる。」 「いまいちよくわからないんだが、」坊主がうそつきに意地悪く問いかけてみた。「あんたのいうその魂とやらはいったい誰なんだ?わしなのか?それともわしの中に入っている他人なのか?だいたいどうして魂は不滅なんだ?そしてもし水蒸気みたいなものならどうやって他人と区別するんだ?」 「それを理解するには、神を信じるしかないだろうね。」 相談してきた女の子は、電話口で息をつぎながら大声で泣いていた。この女の子は鍾乳洞に行ったとき、この『成長』していくつららを自分で育てようと決心して、親に内緒で小さくてきれいなつららを折って持ってかえって来たのだったが、これがただの石だとわかって落胆していたのだった。さらに追い討ちをかけるように、相談員は泣きじゃくる女の子をなだめることもせず、何千年も費やして育ったつららを無慈悲にへし折ってしまった罪に対して女の子を難詰していた。自然に対して冒涜を働いたとなじられた女の子はさらに声を荒げて泣き出した。 「かわいそうにねえ。」眼鏡をかけた小さな老婆が目に涙を浮かべながら同情した。 「ばかな子供だな。だいたい子供は無茶ばかりしやがるから嫌いなんだ。」白髪の男が言った。 「でももしこいつが言うようにつららが生きていないんだったら、どうしてこいつはこんなにむきになって怒ってるんだろうな?石くらい折ったっていいじゃないか。」坊主がつぶやいた。 「生きてなくたって、大自然のものを壊すのはいつだって罪深いことなんだよ。」瓜実顔の老婆が言った。
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木鳥 建欠
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