第199回
番組の話題が『死』について触れだすと同時に、部屋の中の住人たちは口をつぐんだ。昨日詩人の葬式が行われたばかりなので、あまりこの話題について話したくなかったのだった。しかしここで唐突にうそつきが沈黙をやぶった。 「『死ぬことがないものは、生きてはいない』というのはつまり、不滅の魂を持っているわれわれは、誰ひとり生きてはいない、ということが言えるのかもしれないな。」 「なにを言ってるんだ?」坊主が口をはさんだ。「われわれがなにを持ってるって?」 「いやだから、人間の魂が…。」 「人間の魂っていったい何なんだろうな?」白髪の男がつぶやくように言った。 「誰もが持ってる、人間の芯の部分じゃないかねえ。」瓜実顔の老婆が真顔で答えた。 「じゃあさ、例えば今おれが腕の骨を折って苦しんでるとしよう。この場合、痛がっているのはおれなのか、それともおれの魂なのか?」 「それはもちろんあんただろう。」瓜実顔の老婆が答えた。 「いや、それは魂だろう。」うそつきも答えた。 「おれが悪いことした場合はどうなるんだ?それはおれが悪いことをしたことになるのか、それとも魂が悪いのか?」 「なんだかんだ言って、あんたは責任転嫁したいだけなんだろ?」 「でも罰を受けるのはおれじゃなくて魂なんだろ?」 「でも魂はあんたなんだよ。」 「なんだかややこしい話だな。」白髪の男が首をひねった。「そもそも人間に魂なんてあるのかな?」 「もちろんある。」うそつきが自信を持って答えた。 「どこにあるんだ?」 「ここのところに。」うそつきは自分の胸を指しながら言った。 「ほんとか?開いてみると出てくるのか?」 「もちろん出てくるよ。」うそつきは答えた。 皆がうそつきの答えに対して失笑をもらした。 「うそつきさん、」坊主が意地悪くにやけながら尋ねた。「あんたは見たことがあるのか、その魂を?」 「ある。」うそつきはうなずいた。 部屋にいる住人たちは笑いをこらえながら、うそつきの顔をながめた。うそつきは口をかたく閉じて神妙な顔つきをしていた。
0 Comments
Leave a Reply. |
木鳥 建欠
|