第127回
翌日目を覚ますと、王はまずその物体を再確認しようとまた天井からのぞいて見た。距離は縮まっていた。それは常にいま王が乗っている潮の右側に見えた。そしてふと王はある奇妙な点に気づいたのだ。昨日最後にその物体を確認したときは夕刻で、自分を中心にして太陽が沈む反対側にその物体が見えていた。だがいま朝の時刻では、それは水平線から昇ってきた朝陽の反対側に見えているのだ。どういうことだろう?王はいろいろと考察してみた。まず考えてみたのは、その物体と王の部屋が夜中のうちにすれちがったということだった。しかし王はいま潮の上にいるのである。その物体に推進力がないかぎり潮を遡ることはできないだろう。そしてこれは数時間後に証明された。なぜならば、数時間後に見てみるとその物体との距離はさらに縮まっていたからである。つまりすれちがったのではなかった。とすればもうあとふたつの考えしか残らなかった。その物体が王の部屋のまわりを旋回しているか、もしくは王の部屋がその物体のまわりを衛星のようにまわっているか。この問題は数日後にははっきりと解決された。王は日がたつにつれて、部屋に差し込んでくる太陽の光の移動が早くなってきているのに気づいたのだった。つまり王の部屋がその物体を中心に弧を描いてまわっていたのだ。しかも物体が近づいてきているということは、まわりながらその円周はすこしづつ小さくなっていき、その中心に向かって回転しているということなのだ。つまり王はどの方向にも進んでいなかったのだ!おそらく速い潮の流れの結果、このあたりで巨大な渦ができたのだろう。そしてこの部屋はその渦に巻き込まれてしまっていたのだ。この事実は王をはげしく落胆させた。渦であろうがこの潮に乗っているあいだは充分に魚が獲れ、食糧に不足することはなかった。しかし王の最大の目標は食糧の確保ではなく、陸を見つけることなのだ。自分で進む力のないこの部屋がいったんこの渦に巻き込まれてしまうと、逃げ出す術はまったくないのだ。行き着く先はおそらくあの渦の真ん中で、なにもかもが約束された陸地にはならないのだ!あの渦の真ん中に集まっている物体がそのよい例で、それらはあの渦につかまってもうどこにも流されることなく、ずっと渦の中心で浮遊しているのだろう。
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木鳥 建欠
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