第125回
「おい!」王がつづけて話しかけた。「おい、聞こえるか?おまえはどうやってここまで来たんだ?この近くに陸地はあるのか?どうなんだ?」 「たすけてくれ!」男は繰り返した。これだけ言うのがやっとのようだった。 「おい!助けてやる。助けてやるが、どうなんだ?陸地はあるのか、ないのか?」 「たすけて!」男は答えた。「たのむ!たすけてくれ!」 「聞こえるか?」王は大声を出した。「答えろ!聞こえるのか?」 このとき偶然に波がおさまった。このあいだに男はもっと楽に息を吸うことができた。しかし大きな波はまた遠くからこちらに流れてくる。ゆっくりはしていられない。 「聞こえる!」男が答えた。「俺もあんたと同じで、この箱に入れられて流されてきたんだ。でも長年海の上で漂いすぎて壁がくさって、この天気で壊されたんだ。たのむ!なんとか助けてくれないか?」 王はここで大声で笑った。自分がむかしこいつをこの刑に処したのだ。そしてこの男はその張本人に助けを乞うている。王は久しぶりに愉快な気分になった。 「なにがおかしい?笑っていないで、おねがいだから助けてくれないか?」 「おい、きさまはこの近くに陸地があるかどうか知ってるか?」 「知らない。おれもずっと部屋の中にいたんで、自分がどこにいるのか見当もつかなかった。」 「どれくらい海でただよっていたんだ?」 「わからない。数年かもしれないし、一年かもしれない…。」 「じゃあしかたないな。」こう言うと王は乗り出していた体を引こうとした。 「待ってくれ!行かないでくれ!どうか助けてくれ!」 このとき男は後ろから押し寄せてきた波にまた飲まれてしまった。 「たのむ!」はげしく息をつぎながら男は懇願した。「見捨てないでくれ!いままで必死に生き残ってきたんだ。こんなとこで…!」 水面で闘う男の苦しそうな声を聞きながら王が部屋の中に引き返そうとしていると、男が最後の大声をふりしぼった。 「おねがいだ!おれが知っている食糧を得る技術もぜんぶ教えてやるから!いままで習得したものぜんぶあんたに教えるから!」 戻ろうとしかけていた王は、男のこの言葉にすこしいらだったようで、また天井のふちまで戻っていき、男に言った。
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木鳥 建欠
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