第103回
そんな王だったのだが、ここのこの部屋の生活には耐えることができず、太かった王の気力も細くなり、たあいもなくねじまげられてしまっていた。王に対する試練はつきなかった。やっとのことで船酔いから解放されたかと思うと、つぎはこの絶望的な状況に目を向けなければならなかったし、向けざるをえなかった。つまりこの刑の本質―受刑者の飢えと孤独からくる苦しみ―と向かいあわなければならなかったのだ。王はつみこまれていたパンをかじってみた。しかしもともと石のように硬いうえに、弱りきった王のあごでは噛み砕くことができなかった。王はこのようなパンを見たことも聞いたこともなかった。王が食べてきたパンはいつもできたてでやわらかく、香ばしいかおりを発していたものだった。しかたなしに根気よくなめて湿らせることにした。これはうまくいったのだが、数十分かけてふやけたのは一口ぶんにもならない。そこで王はこのパンを樽の中に入れて湿らせることにした。一時間ほどでなんとか王にも噛むことができるくらいやわらかくなった。もっともその代償に貴重な樽の水もずいぶん減ってしまったのだが。王はこのふやけたパンと小姓が隠してしこんでくれた塩漬けの肉をかじりながら残りの食糧について考えた。とても残りのパンをふやかせるだけの水は残っていない。何度考えても同じ結論だった。水と食糧が足りない!もちろんこの苦しみを王に味あわせるためにこそ王はこの刑を受けさせられているのである。それにしてもあまりにも残酷な仕打ちじゃあないか!王は嘆いた。しかしいくら嘆いてみても無駄だった。そして打ちひしがれてくると『海の水が真水にさえなってくれれば』、とか、『魚が自分で窓から飛び込んできてくれさえすれば』とか突拍子もない妄想的な解決策ばかりがあたまにうかんできた。
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木鳥 建欠
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