第102回
このような王の、気の強さをあらわすエピソードは数え切れないくらい国中でうわさされた。王が即位してからの数年間、歯止めがきかないくらいに我を曲げずに執政していたころ、父の代から仕え、王が幼少のころからその目付け役として王を育ててきた老大臣が、ある日あまりの暴走にたまりかねて王に諫言したことがあった。この老大臣はうやうやしく王の前でぬかずき、あらたまった調子で、国の情勢を説き、民の嘆きを伝え、未来に対する懸念を話し、王の暴政をいさめた。王は目の前で話している老大臣を、両目を大きく見開いて眺めていたかと思うと、とつぜん立ち上がって近くにあった大きな鋭い鉤で大臣の耳をつらぬいた。王は悲鳴をあげ身もだえる老大臣の耳を引っ張って壁際まで連れて行くと、つま先でないと立てない高さにあるフックにその鉤を引っかけた。不幸な老大臣は、背伸びしていないと耳が千切れてしまう高さに耳を引っかけられ、壁際で猟でしとめられた動物のようにぶらさがってしまった。そんな老大臣を目の前において王は、老大臣がまったく見えないかのように、また老大臣の痛みに叫ぶ声が聞こえないかのように、その日の執務にとりかかった。やがて半日以上がたち、体中が衰弱で震えて立っていられなくなった老大臣が自分の行為を詫び、痛みから解放されるよう哀願し始めると、王は舐めるようにじろじろと、足のさきから頭のてっぺんまでながめて、ため息をついた。 「どうかお怒りをお静め下さい!どうかご勘弁ください!もうだめです。足に力が入らんのです!」老大臣が火事場に残してきた子供を探す母親のように懇願した。 「まだ何もわかっちゃいないようだな?」王は冷ややかに大臣を見つめて言った。「あんたはまだ何にもわかっちゃいないんだよ。」 「王!どうかご容赦ください。おろしてください!もう、もう決してさからいませんので!お怒りには触れるようなまねはしませんので!」 「だまれ!きさまごときの存在がわしを怒らせられると思ったのか?そんなことはおそろしい思い上がりだ!フン!わしもなめられたもんだ。ちっぽけなきさまらが何人集まってわしを誹謗しようともわしの怒りを向けるだけの価値なんかないのだ!きさまがそこにぶら下げられておるのは、目障りなハエをはしに追いやっただけのことさ。害虫ごときにわしが真剣に怒るとでも思ったのか、おろかものめ!」王はそばにいた小姓に老大臣を壁から離すよう指先で命令するとつづけて言った。「命は助けてやるがここから出てってもらう。悪いがあんたはもうここで何もすることが残ってないんだ。」 そして大臣は罷免され、どこか遠くの地方に飛ばされてしまった。以来王の強引さを目の前で見せつけられた大臣たちは、王に逆らおうと考えることさえもしなくなった。
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木鳥 建欠
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